「年金改革」と人事制度改革(その1)−その本質的課題とは?
国民年金の自営業者、アルバイト生活者、成人学生区分の人々(いわゆる「第1号被保険者」)の保険料未納率が現在4割に達しており、今般の「年金改革」論議の中でも、その対策が大きな課題とされている。
その真の問題性とはなんだろうか?
組織人事体制や評価・報酬制度のコンサルティングを通じて、長年多くの業界で実績を残している、
NTTデータ経営研究所
(東京都渋谷区)コンサルタントの田添氏に聞いた。
現在の年金改革論議の状況をどうご覧になりますか?
- 将来に多少の不安を感じるのをいいことに、「年金保険料など納めなくともよい」とする風潮がまかり通っています。
- しかも、それを追認する「専門家」までが存在するありさまです。
- これは、極めて由々しき問題で、その根底には、当然の公共心が崩壊してしまっているわが国の意識状況があります。
- 現在進行中の「年金改革」は、この点こそが真剣に論議され、制度改定を通じた公共心再生が模索されなければならないはずです。
- しかし、短期的利害の複雑な絡み合いの中で、議論はどうしても、「目先の数字合わせ」「本質問題を先送り」へと流れがちになっています。
- 曲がりなりにも「公」を見据える立場に立つなら、少なくともこうした議論に潜む真の問題性を見極めておくことが重要になっているのではないでしょうか。
公的年金制度について教えて下さい。
| 公的年金とは?主として国が管理する各種の年金制度、即ち、国民年金、厚生年金、公務員共済年金他の総称。主にサラリーマンを対象(被保険者)にした厚生年金保険は、厳密には国民年金を包括する制度となっている。 |
- 公的年金制度においては、私たちが支払う年金保険料は、直接には現役を退いた「隣のおじいいさん・おばあさん」、
- つまり退職世代への年金支給原資となります。
- 従って、自分達の将来の年金受給のために積み立てられるわけではありません。
- その代わり現役世代は、更に後の世代から年金原資を供給してもらうことになっています。
- これを「世代間扶助」といい、公的年金制度の基本的原理であると共に根本理念でもあります。
- 国家レベルでの「世代間扶助」ですから、年金数理に基づいた厳格な原資積み立てを行わなくても、すぐに制度が崩壊するようなことにはなりません。
- 現在の年金論議の中で「世代間での不公平」というようなことが問題となっていますが、
- これも年代別の出生数が完全に同じなどということは現実にはありえないので、多かれ少なかれ必ず生じる制度上必然の現象ともいえます。
自己責任に基づく年金制度は実現できないものでしょうか?
- 現在の賦課方式を改め、自分で積み立てた分を老後にそのまま受け取る方式への移行が原理上は考えられますが、その実現はまず難しいと思われます。
- それは、次のような事情によります
- 平成13年度から導入された退職給付会計に伴う新たな会計基準により、年金制度を持つ企業は、その将来給付必要額に照らして適正な額の支払い準備を行っておくことが必要となりました。
| 退職給付会計とは?退職一時金や企業年金など従業員の退職に伴い、企業が将来必要とする費用を「退職給付に係る会計基準」に則って処理し、開示する会計。年金基金の資産不足や予定利回りの低下が企業の将来に影響を与える懸念から導入された。年金会計。 |
- その「適正な額」の算出は、将来にわたる年金支払必要額を現在価値に置き換えた額として求めることになっています。
- その必要額と現実の準備額(積み立て額)との差額(積立不足額と呼ばれる)は、日本企業全体で数10兆円から百兆円にも及ぶと言われ、企業業績の大きな圧迫要因となっています。
- ですから、余力のある企業は、市場の信用を維持するために、ここ数年間「積立不足」解消に精力的に取り組んできました。
- この企業年金とほぼ同様の方法で公的年金の中軸である厚生年金の「積立不足額」を求めると、約500兆円にも及ぶと言われています。
- 厚生年金を現状の賦課方式から個人拠出型の年金制度に切り替えるには、この「積み立て不足」を何らかの形で解消しなければなりません。
- ですが、わが国の財政の危機的状況からみて、国家予算の6倍を超える金額を手当することは、恐らく何十年かかっても難しいと思われます。
- つまり、公的年金制度を維持するには、国民が制度本来の「世代間扶助」の理念を今後とも受け入れ共有していくより他に術がないわけです。
では、年金改革はどう進めるべきなのでしょうか?
- 仕組みの根本的な変更は不可能ですので、その検討ポイントは限られてきます。
- 毎度問題となるのは、「給付」と「負担」(=保険料)のバランスをどうするかということ。
- これは、給付を引き上げれば同時に負担も増やさなくてはならないという、比較的単純な問題です。
- では、本質的な論点は何もないのかというと、そうでもありません。
- 例えば、「負担」と「給付」の間に、徴収した莫大な保険料の「管理・運用」というプロセスが存在します。
- これはもちろん、政府の専管事項ですが、このプロセスには多くの問題があります。
- 旧年金福祉事業団による積立金運用では、株価低迷の要因もあったとはいえ、兆円単位の積立金がこれまでに失われています。
- 加えて、客の入らないリゾート施設運営(※グリーンピアとして有名)を展開し、その結果多額の年金積立金が水泡に帰している事実もあります。
- これ以外にも、全国の企業によって計2,000近く設立された厚生年金基金が、国や都道府県職員の転職、いわゆる天下り先として利用されてきた事実が存在します。
- 各基金がその設立に当たり、事務局の常務理事に年金業務経験のある公務員を迎えることは、基金の事実上の設立認可要件とされてきました。
- 仮に各基金が年収1000万円程度の旧公務員理事1名を抱えているとしても、そのコストは全体で年間100億円を超える規模となります。
- ところで、企業にしてみれば「そんなにしてまで」設立した厚生年金基金なのですが、超低金利下で財政的な立ち直りの契機を見出すことができなくなっています。
- そのため、基金そのものを解散したり国からの代行運用部分を返上したりという措置がここ数年雪崩のように相次ぎ、実質的に制度そのものが消滅しようとしているのです。
- 公的年金の管理・運用プロセスに見られるこうした一種の「公共心」欠如は、広く国民各層に負の教育効果を及ぼしていると考えられます。
- 従って、公的年金の基礎でもある「公共心」の再建は、公務員そのものから始めなければならないことも、また明らかなのです。
- これが「年金改革」第一の本質的テーマといえます。
目次
- 「年金改革」と人事制度改革(その1)−その本質的課題とは?
- 年金改革と人事制度改革(その2)−年金改革論議からの教訓